端役の妄想

水野友美篇


 水野友美が写真部部室にいた。
 彼女の目の前には一人の男がいる。八十八学園の誰からも、ウジ虫の如く嫌われている男──芳樹である。
 舐め回すような視線が、黒縁メガネの奥から友美を捉える。ニタリと気味の悪い笑みを浮かべ、肥満体を揺らした。手に持つカメラが、友美にはまるで自らを縛る陵辱の道具のように見えた。いや、ように──ではなく、まさにその通りなのかもしれない。

「そこに座りな、友美」
 呼び捨て、そして命令口調で言う芳樹。友美は逆らうことが出来ず、部室にある古ぼけたソファに腰掛けた。パシャ──ストロボが光り、怯えた表情の女性がフィルムに焼き付いた。
 芳樹はソファに近づき、隣に腰掛ける。
 脂ぎった手を友美の顔にかけ、触れ合いそうなくらい自らの顔を近づけた。怯えた瞳が芳樹の嗜虐心を誘う。この美しい少女がオレのモノなのだ──その思いが男を興奮させ、すでにモノは熱く、硬く、ズボンを押し上げている。

 これから男は、友美の処女喪失の瞬間をカメラにおさめようとしているのだ。
 息を荒く吐きながら、芳樹は友美にのしかかっていった……。




年明けの学校に男はいた。名は早くなのでない。仮に安藤と呼ぼう。

 冬期休暇中の八十八高校。
 安藤は校舎内を歩いていた。学生の数は少ない、と言うより、皆無と言っても良いだろう。安藤がここにいる理由、それは、学園を脅かす敵がいないか改造超人としてパトロールしている、なんてことはなく──単なる暇つぶしであった。何か事件でも起これば良いな、それが可愛い女の子絡みなら言うことはない、自分がその娘とお近づきになれれば最高、そんなところだ。

 三階への階段を上った時、物音が聞こえてきた。物音と言うか、微かな女性の声だろうか。何か切羽詰まったような、助けを求めるような、そんな声……。
 オレでないと気付かなかっただろうな、と安藤は自分の聴力の見事さに酔いしれた。

 写真部の部室前に立つ。ここからだ。
 ドアを開けようとしたが、どうも鍵がかかっているらしい。彼は戸惑うこともなく、ポケットの中から鍵の束を取り出し、静かに鍵を開けた。安藤は学校中のドアの鍵を複製しているのだ。まぁ、これは学生の常識であろう、と彼は思っている。

 静かにドアを開け、部室に入る。中の人間達は気付かなかったようだ。
 中を見た彼の目に飛び込んできたのは……少女にのしかかる男の姿だった。

 男はズボンを脱ぎ、汚らしくそびえ立つペニスを少女の股間にこすりつけていた。
「いやぁ……助けて……」
 微かな少女の声。それを男は楽しむが如くに腰を動かす。脂肪の塊かと見まごう巨体が、何も身につけていないむき出しの白い肢体の間で蠢いている。まだ挿入はしていないようだった。生の性器を擦り併せてはいるが。
「くく、友美、じゃあ入れるよ」
「あぁ…………」
 諦めの呟きを漏らす少女。今しも男の肉棒が侵入しようとする瞬間、安藤は行動を起こした。男の征服の襟元をつかみ、少女から引きずり離す。何か声を出す前に首に腕を巻き付け、一瞬のうちに失神させた。
 下半身だけむき出しで、男は無様に床に這った。しばらくは失神しているはずだ。

 男の名前を、安藤は知っていた。この学校の生徒でコイツの名を知らぬ者はいないだろう。それだけ、悪名轟くヤツなのだから。
 この男の魔の手から少女を救えたのは幸いだ。こんなヤツに犯させるくらいなら、僕が犯すよ、と安藤は思った。

 少女の方を見た。
 目隠しをされ、両手はピタリと縛られてソファの端にくくられていた。そのため何が起こったのか解らず、ただただ怯えている。
 少女の名前も、安藤は知っていた。水野友美──この学園で人気ランキングがあれば、五指に入るであろう美しい少女だ。眼が隠れているのに、見事に人物を判別する自らの観察眼の鋭さに、安藤は酔いしれた。
 それにしても、乱れた髪が肢体に巻き付いていて、欲情をそそる。

悪魔の囁きが響いた。
今ならヤツが犯したことに出来る……と。




 学園内で評判の才女の一糸纏わぬ姿を見て頭に血が上り、自分が何をしているのかも解らないまま、少女の身をその腕の下に組み伏せた。
 柔らかい……。
 彼女のものだと思われる香りが漂ってくる。強いものではないが、脳髄を痺れさせるような甘い匂いだ。
 息が荒くなるのを抑えながら、安藤はズボンを脱ぎ、自らのモノを取り出した。硬くなっている。しかも自分の記憶にないくらいに……だ。これからレイプをするのだと言う事実が、彼を興奮させた。

 既に友美の花弁は熱く濡れている。
 異常なシチュエーション、そして芳樹の巧みな愛撫は、意に添わぬ行為であるにも関わらず彼女を感じさせていたのだ。

 そこにペニスを押し当て、侵入させる。
 ズブズブ……と徐々に中に入っていく。暖かい肉壁に包まれた男自身は、その気持ちよさに更に膨張していった。
 安藤に、もはや理性など残っていない。
 女のことなど考えず、無心で腰を振り、ペニスを子宮に叩き付ける。
「ああっ……痛い……」
 か細い声が、確かに男の鼓膜を震わせているはずなのだが、思考中枢を震わせることは出来ないようだ。男にはすでに自分の感覚を追い求めることしか頭になかった。

 どれほど往復運動を繰り返しただろう?
 何度、女の中に精を放っただろう?
 そして、今また精を放とうとしていた。
「もう……いや…………やめて……」
 息も絶え絶えに、のしかかる男を押しのけようとする友美だったが、力などはほとんど入っておらず、相手に征服感を与えるだけであった。
 逆効果を与え、男の動く速度は上がる。
 友美は中のモノが膨張するのを感じた。
(ああ、また中に出されちゃうんだ……)
 何か自分のことではないように感じる友美。熱いものが、また彼女の中で弾けた。

 その時、二人は気付かなかったが、何か巨体の起きあがる気配が部屋の空気を動かした。
 彼女の悪夢は、まだ終わりを見せないようだった……。




 ──などと十数秒の妄想を繰り広げた安藤だったが、結局何もせずに彼女を助けることにした。何しろ自分は正義の使徒なのだからな、と思いながらも、さっきのは今夜のネタにしよう、と安藤は決めていた。

 この出来事は友美の心に安藤への恋心を芽生えさせるのだが、彼は色々妄想はするくせに、色恋沙汰にはとんと疎いので、全く気付かず卒業を迎えることになる。
 こうして、端役・安藤の独り身はまだまだ続くのだった。