月明かりの中で
後編


 ビアンカを息をついた。
 露天風になっている家のお風呂の中に白い肢体を沈めながら、空に浮かぶ月を見上げた。白く輝くそれは、暗闇に包まれているはずの露天風呂を薄く照らしている。綺麗な光景だな、と彼女は思った。
(やっぱりお風呂は気持ちいいな)
 もっと開放感を味わいたいときは、村の名物になっている巨大露天風呂に入りに行く。「でもあそこは混浴だからなぁ」と少し残念に思うビアンカだ。自意識過剰かもしれないが、あそこに一人で入っているとエッチな視線をびんびん感じるのである。だから、いつもは少し狭いが家にあるお風呂で我慢する。とは言っても温泉も引かれているので、これ以上の贅沢は望めないのだが。

 カイが家に来てから一ヶ月が経とうとしていた。
 まだ少年にも関わらず、彼は色々な技術を既に身に付けていることがすぐに分かった。特に料理は母親仕込みでビアンカも(うぐっ、こ、これはかなわない)と脱帽してしまったものだ。ビアンカも母親が亡くなり父親と二人きりになってからは何もかも自分でこなしていたし、自信もあったのだが上には上がいるということだろう。少年の家は「厳しい」のだろう。
 それに――とビアンカは思う。少年はもしかしたら連れ子という立場を自分で考えてしまっているのかもしれない。そういう雰囲気なのか、それとも少年が思い込んでいるだけなのか、それは分からないが。
 それはともかく、ビアンカの少年に対する好感度は上がる一方であった。料理をしていても掃除をしていても笑顔を絶やさずかいがいしく動き回り、人と接するときも礼儀正しい。何よりビアンカに接するときの照れたような仕種がとてつもなくカワイイのだ。
(弟がいたらこんな感じなのかな)
 とビアンカは思う。でもリュカも二つ年下だったけど、生意気に感じたような覚えもあったりする。やっぱり年下はこうでなきゃいけない、うんうんと彼女は納得した。実際のところはお姉さんぶろうとするビアンカをリュカの方が「同じ子供のクセに」と鼻持ちなら無く感じたからなのである。姉弟というものは、年が離れていたほうが仲良くなるものなのかもしれない。

 水面下で、彼女はスラリとした手足を撫でた。いつも縛っている髪の毛はもちろんといていて、水面上に浮かんでいる。右手を頬にやり、撫でたあとその手を沈め、そしてまた空を見る。
「ほんとに……綺麗だな〜」
 と、ビアンカが口に出して呟いたとき、思いかけない声が聞こえた。
「ビアンカさんの方が綺麗ですけどね」
「えっ?」
 ビアンカが声のした方を向くと、そこには意外に引き締まった裸体をさらしたカイが立っていた。そして、近づいてくる。
「あ、あっ、し、カイくん、どうしたの」
 予想外の出来事に慌ててしまう。狼狽した彼女の言葉に微笑みを返しながら、カイはビアンカのすぐ側に体を沈めてきた。少年の肌に触れないように、自らの体を隠すように、ビアンカは身を縮めて丸くなった。
「どうしたって、ビアンカさんがお風呂に入るようだったから、ボクも一緒に入ろうかなって思って」
「一緒にって、そんな、」
 堂々とした少年とうろたえた自分。
 なんだか逆じゃない? とビアンカは思った。正直な話、少年がお風呂のとき入っていってうろたえさせてやろうかなー、とかちょっと考えていたのだ。想像するだけで顔が熱くなってきてたので実行には移せなかったが。
 それを、今まさに逆の立場でやられている。
「入る前に声をかけてくれたって」
 混乱した頭で何とかとがめたような声を少年に向ける。
「……ダメなんですか?」
 そう言いながら、カイはビアンカの左手を掴んで、一糸纏わぬ彼女の肢体を自らの胸の中へ引き寄せた。ビアンカは慌てて身を離そうとしたが、思わぬほど力強く抱き寄せられて動揺する。そして、彼は彼女の耳元へ唇を寄せてもう一度囁いた。
「イヤ……ですか?」
 ふと気づく。
 少年の体はすこし震えていた。声もすこしかすれたような感じだ。
 緊張しているのは少年も同じなのだ。そう感じたビアンカはふるふると首を振り、「そんなことないよ」と呟いた。

 カイは肩の辺りに触れていたビアンカの顔を上げさせ、瞳を見つめる。薄闇の中、月明かりに照らされてぼんやりと浮かび上がる彼女は、妖精のように美しかった。カイはガマンできずに唇を寄せ、そしてキスをした。最初はついばむように……そして徐々に激しく、舌を使いながら。
 お湯の中では、右手でビアンカのすべらかな肌を存分に味わう。脚に、腰に、内股に、背中に、全身に手を滑らせながら、時折手を止めて揉むように指を動かす。ビアンカの息が荒くなってきた頃、手を胸に滑らせ、優しく揉んだ。手のひらで胸の先端部分を押しつぶすように、下から優しく持ち上げるように。
「はぁ……だめ、のぼせちゃうよ」
 困ったような、感じているような表情を見せながら、ビアンカは声を漏らした。
「大丈夫ですよ」
 良いながら、カイは右手を今度はビアンカの内股に滑らせた。
「あっ」
「ビアンカさん……」
 そして、その手をゆっくりと、焦らすように上に上げていく。
「や……だめぇ」
 中心部分には持っていかず、その周辺と内股の部分をやんわりと愛撫すると、ビアンカの息がどんどんと荒くなっていった。
「あ、あっ」
 そして、キスをしながら、カイは女性の中心部分に指を触れさせる。
「い、いやぁっ……あっ、あぁん」
 濡れている。
 お湯の中に浸かっているにも関わらず、カイには「そこ」がお湯以外のもので濡れているのが分かった。ヌルヌルとしたそこを愛撫しながら、少年は徐々にそこへ指を沈めていく。
「だ、だめ、こんな所で……」
 ビアンカは、そう言いながらも徐々に脚を開き、男の指を受け入れやすいように、無意識の内に態勢を動かしていた。それに少年は気付いていたが、何も言わず、彼女の首筋に唇を滑らせながら中指を挿入させた。
「…………っ!!」
 一際高い、声にならない声をあげて、ビアンカはそれを受け入れた。
 体が官能に震えている。
 カイが静かに、ゆっくりと、優しく指を動かし始めると、さらに何も考えられなくなっていった。
「か、カイくぅん」
 男の名前を呼びながら、ビアンカは左手を湯の中で動かし、「何か」を探し当てた。ソレはすでに熱く、硬く脈打っていた。握ると、少年が吐息を漏らし、ビアンカの瞳を見つめる。その目を見つめ返しながら、ビアンカはソレを上下に動かした。
 少年の表情が変わる。
 気持ちよさに耐えるようなその表情を見ていると、ビアンカはドンドン感情が高まって来るのが分かった。二人とも、手を激しく動かしながら、互いのぬくもりを感じている。
「え……」
 ビアンカの中から、指の感触が消えた。どうしたの、と問おうとするビアンカの唇が男の唇で塞がれ、そしてモノを握っている手を離すように促された。そして唇を離したカイが、ビアンカの顔を見つめて、こう言った。
「良いですか?」
 お湯の中で、ビアンカは態勢を変えさせられる。男の腰にまたがるような態勢に。そして、カイはビアンカの顔を両手で包み込み、引き寄せた。そしてもう一度。
「いいですか?」
 男のものが女性の中心部分に当たるのを感じながら、ビアンカは答えた。
「……うん」
 ぐ……ぐ……ぐにゅ……
「ああぁっ」
 奥まで男のソレで満たされる。
 久々の、それは感触だった。
「あっ、あっ、あっ……」
 一定のリズムで、ビアンカの肢体が男の腰の上で上下に蠢く。男の舌が女の胸を、首筋を、唇を彷徨い、両手が女の尻を掴む。その感触を感じ、ビアンカはさらに高まっていく。
 激しく、しかし優しく、蠢きながら、二人の息づかいがせわしなくなっていった。
「び、ビアンカさん……ボク……」
「う、うん、いいよ、来て」
 その言葉に、カイの感情が激しく揺さぶられた。ビアンカを突き上げる動きがさらに激しくなり、中に入っている少年のモノがこれ以上ないというくらい硬く、大きくなっていった。
「ああっ! も、もうダメ……お願い……っ!」
「い、いきますっ! あ、イク!」
 そうカイが叫んだ瞬間、ビアンカの体内で何かが弾けた。
 ビュッビュッ……ビュクン……。
 男の欲望がビアンカの奥を叩く。
「あ……あ……」
「はぁ、はぁ、はぁ」
 ぐったりともたれかかっているビアンカの熱い肢体を感じながら、少年は彼女の髪を撫で続けた。
 しばらくジッとしていた二人だが、ビアンカが体を起こし、少年にキスをした。唇を離したあと、彼女は少年を見つめてこう言う。
「こんなとこでしちゃったね」
 二人で初めてしたのがお風呂で、とは。ビアンカは少し可笑しかった。
「でもさ、カイくん、けっこう慣れてない?」 「び、ビアンカさんっ」
 少年は慌てたような小さな叫び声をあげ、そして否定する。
「えー、だって、上手だったし、スムーズだったし」
「上手に、出来てました?」
 カイは嬉しそうにビアンカを抱きしめ「何回も頭の中でシミュレーションしてたかいがあったかな」と微笑んだ。そしてまた深いキスをする。
「ビアンカさん」
 唇を離し、見つめあい、そして耳元で囁く。
「好きです」
「こんなことしてるから言ってるの?」ビアンカは少年の首に両腕を絡め、そして両手で頭をなでまわしながら訊く。
「ち、違いますよ! ボクは本当に――」
 言い募ろうとした少年の唇がビアンカのそれにふさがれる。
「……あっ」
 しばらく彼の唇を、口内の感触を味わっていたビアンカの表情が少し変わりか細い声をあげた。そして、恥ずかしそうに、困ったように、微笑む。自分の体内に残っている少年のあれが、再び大きくなってきたのを感じたのだ。
「……」
「……」
「ビアンカさん」
 再び小刻みに腰を動かし突き上げ始めながら、カイは口を開いた。
「なにかな」
「もう一度、いいですか?」
「いいかって……もう、始めてるじゃない」
 そう言いながら、ビアンカはカイの唇を求め、再び腰を動かし始める。

 月は、二人を見守るように、空に浮かんでいた。



(おわり)