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「あ、オレ、サマルトリアの城に行きたいな」 ローレシア王子であるアルスがそう言ったのは、アレフガルドからデルコンダルへの航海途中のことだった。途中にサマルトリア近海を通るので、寄っていきたいのだと言う。 「早く行かなきゃダメなんじゃないですか」 「こっちの状況をサマルトリア王に報告しておくのも必要なんじゃないか、レイ?」 ボクはすぐには賛成しなかった。確かに長い旅の中、望郷の念が募らなかったわけではないが、目的を果たすためにはそんなことは言っていられない。目的とは、どういうわけか人間の領土へ攻撃をしかけてくるロンダルキアの教団連中をどうにかする、と言うものだ。現在はローレシアの軍勢がムーンブルク城付近で戦線を展開している。戦況は膠着状態のようだ。 「うーん、でも」 「何だよ」 「使者を出しておけば良いんじゃないかな。実際、前線への報告はそうしたんですし」 「バカ、王への報告なんだぞ。オレ達が正式に行かなくてどうする。重要なんだ」 「どっちかって言うと、前線への報告の方をキチッとしておいた方が良いような気が」 そう応えたときだった。 「バッカねぇ」 頭上から弾むような声が聞こえてきたのは。 「え」 スタッ。 ほとんど音もなく、ボク達が座っている場所へ一つの影が落ちてきた。 「わぁ」 「アルスが用があるのは、王じゃなくって、王女の方よ。リアちゃん」 影は、ムーンブルク王女・ステラだった。リアとはボクの妹の名前だ。 「一体どこから」 「上。見張り台にいたの」 「飛び降りたの?」 「ええ」 吃驚した。 「おいおい、無茶なヤツだな」 アルスも苦笑している。 「だぁ〜って。上で聞いてたらレイって察しが悪いんだもん。もどかしくってさ」 ニッコリと笑う。 きちんとした正装をして微笑みかければ、どんな男でも虜にしてしまうであろう。それくらいの美貌を持つ王女だし、一見楚々とした風に見える。それが……正直一緒に旅をするまでこんなに闊達な女性だとは思っていなかった。でも、この明るさに精神的に助けられることは多い。周りの人間に笑いと活力を与えることの出来る女性なのだ。 「で、どういうことなんですか」 「だから、アルスはリアちゃんに逢いたいんだって」 「え、そうなんですか?」 ボクは吃驚してアルスの方を見た。 彼は苦笑したまま肩をすくめただけだ。 うーん、どう考えたら良いんだろう。そういやリアのやつも「アルス様って凛々しくて素敵。ボーっとしたお兄様とは大違いねオホホ」なんてコロコロ笑っていたっけ。いつものような「お兄ちゃん」と言わなかったのには何かしらの理由があったわけか。もしかして、二人って恋にでも落ちてるのかな。でも、とボクは思う。アルスって旅の途中も結構行く先々の女性とイロイロやっていたような? うーん。 「だからね」 「わっ」 考え込んでうつむき加減のボクをのぞき込むように、ステラは顔を近づけてきた。ちょっとドキッとした。 「だから、まぁサマルトリアに寄っていっても良いんじゃないかな。そうタイムロスにはならないだろうし」 「う、うん、まぁ、そうですね」 「人の恋路を邪魔すると、マドハンドに地面へ引きずり込まれるわよ」 うわぁ。想像すると腕に鳥肌がたった。 まぁいいか。 そんなこんなで、ボク達はサマルトリアのお城へ向かうことに決まったのだった。 「と、言うわけでですね」 ボクは父に向かって語をつないだ。 「アレフガルドは王様が雲隠れしていた間の混乱をおさめないと、援軍を出すにもどうしようもないみたいです。教団もそこら辺はぬかりないってことでしょう」 「うむ、そうか」 「これからデルコンダルの方にも援軍の要請に行ってみますが、そう友好国ってわけでもないですからねぇ。動いてくれるかどうか。あそこの海軍は頼りになるので、ロンダルキアの東方あたりを脅かしてくれるとこっちも動きやすくなるでしょうけど」 「そこら辺はお前達の手腕次第ってことだな」 サマルトリア王はにやりと笑った。 ボク達だけでなく、もちろん外交官も一緒に連れていっているのだが、その交渉力の他にプラスアルファが要るってことか。厄介だなぁ。 「報告はそれだけだな。それじゃ、久々に一緒に食事をとるか、レイヤール。アルス殿とステラ殿もどうだね?」 「はい。ご一緒させて頂きます」 ステラは優雅に頭を下げた。ここら辺の立ち居振る舞いが、さすがに歴史のある国家の王女だなぁ、などと思う。サマルトリアはどっちかって言うと田舎国家だから。 そんなことを考えている間に、何故かアルスは辞退を申し出て部屋に帰っていった。あれ、一緒に食べれば良いのに。具合でも悪いのかな? そう思ったことをステラに話してみると「やっぱり察しが悪いわね、レイって」と苦笑された。 「何でですか」 「まぁ、すぐに分かるわよ。あ、これからの食事、リアちゃんも出席しないわよ」 ……ステラの予言は中った。 「予言じゃなくて、推理……とも呼べないくらいのものよ」 そんなものなんだなぁ。 「レイ」 「はい?」 「アナタ、国際政治とか戦略戦術には長けてるのは良いけど、もっと人間関係、こういう方面にも興味持ちなさいよね。二流策士で終わっちゃうわよ」 心します、とボクは言った。 ──ボク達が食事をしている間に、妹の部屋はえらいことになっていたと言う。 (おわり) 【付録:えらいこと、をちょっとだけ】 リアは自分の部屋に入ってきた人影に気づき、そして、それが誰であるかを認識し、嬉しさで頬を赤らめた。 「アルス様っ」 「やぁ」 リアは小走りにアルスに走りより、そっと身を寄せた。前に逢った時から半年ほどしか経っていないのだが、ガバッと抱きついてしまうほど幼くもなくなり、恥じらいを覚える乙女に彼女はなっていたのだ。 アルスは驚いていた。ほんの短期間の間に、リアが変わっていたからだ。元気で可愛い女の子から清楚で美しい女性に。彼女のふわっとウェーブがかった艶やかな黒髪を撫でる。その柔らかさが心地よく、アルスはずっと触っていた気分にせさられた。真っ白な薄着はリアの体のラインをうっすらと浮かび上がらせている。 「アルス様……逢えて嬉しいです」 潤んだ瞳で見つめられると、アルスはたまらない気分になった。 「リア……」 名前を呼んだあと、黙って頬に手をやり、親指で彼女の唇をそっと撫でるアルス。 あっ、と声にならないほどに口を動かすリア。 ゆっくりと、二人の顔が近づき、そして唇が触れ合った。 何度か触れ合うだけのキスが続いたあと、アルスはリアの唇を舐めた。えっ、と驚く彼女の口内に彼の舌が侵入を開始する。驚き逃げようとする身体を掴まえ、口内を蹂躙していくと、あるところで彼女の軽い抵抗がパタッと止み、ぐったりと身体を預けて深いキスを受け止め始めた。 ちゅぱちゅぱと恥ずかしい音が耳に届くが、それがまた官能をわき上がらせた。 「逢いたかった」 思う存分リアの唇を味わいながら、アルスが耳元で囁く。 「わ、私もです……」 耳を舐めながら、囁く。 「前にした約束、覚えてる?」 リアの顔が沸騰したかのように耳まで真っ赤になった。 「……」 「……」 背中や足のラインを、アルスは服の上から愛撫していく。 「覚えてる?」 頬に、額に、髪に、首筋に、キスの雨を降らしながら、アルスはもう一度聞いた。 「……」 「……はい……」 リアは消え去りそうな声で応えた。 「じゃあ──」 アルスはリアを見つめると、唇を唇に重ね、そして、彼女の肢体を抱え上げた。 「あっ……!」 ベッドに運び、彼女を優しく横たえる。 「じゃあ、リアを貰うよ」 言いながら彼女の上に覆い被さり、唇を重ね合わせる。 「……んっ……」 彼女の白い服の下にもぞもぞと侵入を始める手。 服を脱がされた彼女の白い肌の上にピッタリと身を寄せる浅黒く逞しい肉体。肌と肌が触れ合う感触は、リアが驚くほど気持ちの良いものだった。女性の双丘を優しく、それでいていやらしく弄ぶ掌。先端の部分を初めて舐められたとき、リアははしたないほどの声をあげてしまう。 官能に火を付けられてしまったリアは、為す術もなく翻弄され、ぐったりとして全てをアルスに任せるだけであった。喘ぎ声がリアの部屋に静かに響く。 そして、信じられないほど濡れてしまったあの部分に、アルスの硬いものが侵入を始め、ソレが全て彼女の肉体の中に埋め込まれたとき、リアの記憶は途切れた。 その日、リアは「初めて」をアルスに捧げたのだった。 |