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リュカは悩んでいた。 ベビーパンサーの名前を付けるときも、奴隷にされてヘナヘナになっているときも、マリアをヘンリーにとられて「どろぼー、返せどろぼー」と叫びながら本当はヘンリーをマリアにとられたことが悲しいんじゃないかオレなどと怖い考えが浮かんでいたときも、こんなに頭を使ってはいなかった。 そう、彼は今、自分の結婚相手を選んでいるのだ。 幼なじみの──気が強いが、輝くほどの清冽な魂を感じさせる少女、ビアンカ。 富豪の一人娘、清楚で暖かな雰囲気を持つ令嬢、フローラ。 どちらを選んでも人生薔薇色だぜ、えへへ、などとリュカは思っておらず、どちらかと言うと戸惑っていた。ビアンカは再会して間もないし、フローラは出会ったばかりだ。自分がどっちを好きかなんて分からない。2つのリングを捜している間、ずっと考えてはいたのだが、答えはいまだ出ていなかった。 それに、とリュカは思う。 女性2人の気持ちはどうなんだろう? 自分を嫌ってはいない、むしろ好意は持っているだろう、ということは如何にリュカが鈍くても分かっていた。フローラにはアンディという存在がいるのも気掛かりだ。もしかしたら彼が好きなのかも知れない。親に言われたから自分を見ているのかもしれない。 大体なんでこの時点で二者択一なんだ。強制されているみたいで気分が悪い。自分の意思に関係なく周囲に流されているような感じがする。でも、どれほどの人間が自由に生きていけるだろう。誰しも何らかの限定された条件の中で選択を重ね生きているのではないか。そう考えると、いまルドマンにどちらと結婚するのか迫られて当然なのかもしれない。しかし――。 リュカの想いは千々に乱れていた。 どちらか? リュカの口から出たのは、二つに一つを選んだ言葉ではなかった。それは、全く別の選択肢。 「……結婚は、出来ません」 ルドマンからは驚きの声があがった。どういうことか、と問いつめてくる。リュカは整然と話すことは出来なかったが、考えを伝えた。「ボクが片方を選べば、もう一人は諦めさせるんですか? 決定権はボクだけにあり、ビアンカにもフローラにもないのでしょうか。巧く言えないけど、何かおかしいですよ」と。 言い終わり、部屋の中に沈黙がおりる。 リュカは自分の行動に戸惑いながら、考えは伝えし何だかいづらいので出ていくことにした。ここで二人を前にしているのは息が詰まる。宿泊している宿屋に向かい、落ち着くことにした。 出ていくリュカを見ながら、ビアンカとフローラは何かを考え込んでいた。 深夜。 部屋の中で、リュカはひとり寝台の上で仰向けに寝転がっていた。窓からは月明かりが入り込み、ほのかな明るさを部屋に拡げている。 眠れなかった。 目を瞑っても、ビアンカとフローラの顔が浮かんできて、心が乱された。どちらかを選べば良かったのだろうか。そう思うが、どうしても片方を選ぶことが出来なかったのだ。 もやもやとしている時、コンコン、と控えめなノックの音が聞こえた。リュカは起きあがってドアに近き、誰だい、と問いながらドアを開いた。 「リュカさん……」 そこにいたのは、フローラだった。 思い詰めたような表情で佇んでいる。部屋着のまま、こっそり家から抜け出してきたような格好だった。 「えぇっと……とりあえず入って」 リュカはどうしたらいいのか戸惑った。こんな夜更けに男の部屋へ、ということに躊躇はあったがドアの所で立ち話をしているわけにもいかず、フローラを部屋の中へ誘うことにした。 椅子もないけど、どうしよう。ベッドに座らせるのも何だしなぁ……と思っていると、フローラはリュカを見つめたあと、すっと身を寄せてきた。 リュカは心臓がちょっとだけ破裂しかけた。 彼女は目を伏せ、顔をリュカの胸に押しつけると、か細い声を出した。 「リュカさんは……私のこと、お嫌いですか?」 「いや……勿論、嫌いじゃないですよ」 フローラはリュカを見つめ、そしてはっきりと言った。 「私は、リュカさんのことが……好きです」 フローラは顔を上げ、リュカを見つめながら、そう言った。リュカは心臓が爆発しそうになった。鼓動が頭にも響く。 薄布を通して、フローラの柔らかな肢体が感じられる。胸にそえられていた彼女の手が上がり、リュカの頬を撫でた。優しい、暖かな、美しい指先だった。 「貴方はまた旅に出るのですよね。私を……連れていって下さい。妻でなくてもいい。私、リュカさんと一緒にいたいのです」 「フローラさん……」 愛おしくなった。これが好きという気持ちだとリュカは思った。一時の衝動に過ぎないかもしれない。しかし、ここで突き放すことは出来ないし、したくなかった。 フローラの髪を撫でる。柔らかくて、艶やかで、表現が見つからないけどとにかく綺麗だとリュカは思った。抱き寄せ、髪を撫でていた手を移動させて、彼女の頬に当てた。顔を寄せて、見つめ合う。 そして──、 フローラが瞳を閉じたのを合図として──、二人は唇を重ねた。 リュカは止まらなかった。 フローラも、拒もうとはしなかった。 二人はもつれあうようにベッドに倒れ、燃えるような視線を交わしあったのだった。 |