ふたり

後編


 それはつまり――。

「節操なし」
 リュカはその声を聞いて顔をあげる。
 部屋の中にはもう一人女性が存在した。
「リュカさん、ひどいです」
 白いシーツを体に巻きつけただけの姿で、フローラは拗ねたような声を出した。実際に拗ねていたわけだが、その表情がまた愛らしい。また朝日で彼女の体の線がシルエットとして浮かび上がっていてとても色っぽい。愛嬌と色気のダブルパンチにリュカはノックアウト寸前だったが、
「いや、それは」
 と言いながら起き上がり、フローラのほうを向きながらベッドの上に座りなおす。
 その後ろからにゅにゅっと腕が二本出てきてリュカに巻きついた。
「いいじゃないよ、フローラは先に来て存分に愛して貰ってんだから」座るリュカの腰に手をまわし、彼の腕と腹部の間から顔をひょっこり出しながらビアンカが言う。
「だってビアンカさんっ」
「まぁまぁ。これからずっと時間あるんだし、あんまりぷんすか怒ってちゃダメだよ」
 エヘヘ、とビアンカは笑った。
 昨夜、一度は寂しく宿屋を後にしようと考えた彼女だったが、そこで閃いたのだ。「そっか、何も一夫一婦制にこだわらなくてもいーじゃん」と。そう教義に定めた宗教もこの世にはあるが、ビアンカはその宗教の敬虔な信者、ではなかった。道は拓けた。


 それはこういうことだった。

 リュカとフローラが事を終え寝入ったのを見計らい部屋へと侵入。そこで彼のアレにアレな悪戯をし――簡単に言えば、夜這いを敢行したのだ。寝ていても血が集まるところには集まるらしい。すぐに硬くなったリュカのそれを既に濡れそぼっていた自分自身へ導く。
 やけに興奮していた。
 こ、これはクセになるかも。ビアンカは思った。
 そうしているうちにリュカが気付いて、「え、び、ビアンカ!?」と声をあげたのだが、その驚愕の表情がまたビアンカにとっては快感を高めてくれるものだった。
「うん、リュカ、好きだよ」
「ちょ、ちょっと、ダメだっ――むむぅ」
 リュカの唇を自分のそれで封じ込め、舌を侵入させる。れろれろと絡み合うその感触がたまらない。腰の動きが早くなってしまう。上下に、円を描くように、激しく。
「んっ、んっ、んっ……」
 押し殺したような官能の喘ぎが脳内に響く。
 くちょくちょといういやらしい音も聞こえてきて、さらに興奮が高まった。
「ぷはっ。ほ、ほんとにダメだって」
 切羽詰ったリュカの表情。
 彼の状態がビアンカには分かった。
 ビアンカは上半身を倒してリュカにその肢体を密着させ、そして耳元で囁いた。
「いいの、そのままで、好きなときにイっていいよ」
「だって」
「……中に……きて」
 少し体を起こし、リュカの瞳を熱い視線でみつめる。
 その瞬間彼の瞳は燃え上がった。
 それを見てビアンカは心の中で握りこぶしを作った。
 いやー、自分もけっこうイケてるじゃん。年下殺しってやつ? もうリュカも私のトリコだぜーってね、うひゃひゃひゃひゃ。
 そんな達成感を感じたからだ。
 上になっている自分だけでなく、リュカも突き上げるように腰を動かしてくる。動きがシンクロし、二人の官能を押し上げていく。自分の中をぐちょぐちょにかきまわしているリュカのそれが、さらに体積と硬度を増していくのが分かる。ビアンカはもう何も考えず、快感をのみ追い求めた。
 そして――。
 彼のそれが爆ぜる瞬間。
 ビアンカは自分の脳内で何かが爆発するのを感じた。
 白い。
 真っ白い世界。
 空へ、高く放り上げられたような浮遊感を感じた。
 ――そして。
 ゆっくりと落ちてくる。
 意識が戻ってくると、自分がリュカの上になり抱きついている態勢なのが分かった。胸と胸がくっつき、頬と頬を寄せ合い、互いが互いを感じていた。
 と。
「えっ、な、なになに」
 混乱した声がすぐそばで聞こえた。
 眠っていたフローラが目を覚ましたのだ。
 まぁ同じベッドでギシギシやってれば気付くわよねぇ、とビアンカは他人事のように考えた。確信犯なのだから戸惑うことはない。しかしリュカはそういうわけにはいかなかったようだ。
「あ、ふ、フローラ、これは、その」
「先越されちゃったけど、フローラさんが寝てる間に追いついちゃった。エヘヘ」
 焦るリュカと暢気なビアンカ。
 対照的だ。
 フローラはそれを見やりながら何となく状況を把握した。
 いつもは大人しい彼女だが、それだからこそこういう時は烈火の如く怒りだし「リュカさんどういうことですか」と問い詰める! とリュカは、そしてビアンカも予想していたのだが。違っていた。
「ひどい、私を放っておいてなんて」
 むー、という感じで眉をひそめると、フローラはリュカの上半身に横から覆い被さり、キスをした。唇、そして顔、のみならず体にまで、キスの雨を降らせ始める。
「あ、あれれ」
 ビアンカもさすがに意表を突かれ、自分がまたがっている男を愛撫しはじめた女性を呆然と見やる。
 と、そんなとき。
 ビアンカの中に欲望を吐き出したばかりのそれが再び大きくなってくるのを感じた。リュカも予想だにしていなかった展開に混乱しながらも、一糸纏わぬ美女二人に攻められているかのようなその状況に再び興奮を掻き立てられたのかもしれない。微妙に蠢くリュカに、ビアンカもまだ冷めていない興奮を刺激され再び上昇し始めるのを感じた。
「フローラ、ビアンカ」
 強い口調でリュカはふたりを仰向けに寝るよう指示し、そして、並べられた白く光る二つの肢体の上へと覆い被さっていった。


 ――長い夜。
 明けたとき、いや、明ける前からなのだが、リュカは既にふたりのどちらかを選ぶ気などなくなっていた。
「ふたりとも俺のだ!」
「うん、そうよ、よく言ったわリュカ、それでこそ男よ!」
「もう、リュカさんってば……」



 その後のルドマン屋敷の騒ぎは特筆に価した。

「だ、旦那様! こんなものが!!」
「何だ、騒々しい、この世には驚いたり慌てたりするようなことなど一つも――って、バカな!」
 リュカについていきます、というフローラの置手紙。
 そしてもぬけの殻となっていた、天空の盾が入っていたはずの宝箱。
 さらにリュカ一行が既にサラボナから消え去っていたこと。
 トリプルパンチでルドマンは倒れ、そして数週間は起き上がることがなかったと言う。
「まぁまぁ、あの娘ったら……」
 愛娘の意外な行動力を意外に思いながらも、夫人の方は微笑んだのだった。
 倒れて寝室へと運ばれていく夫の姿を見ながら、ルドマン夫人は執事を呼びテキパキと指示を出した。ポートセルミにあるルドマン家の船をリュカ一行が使えるようにすること。一行を探し出し、その旨を伝えること。倒れた夫のために医者を呼ぶこと。
 そして一人になったあと、小さな声で呟いた。

「フローラをヨロシクお願いしますね、リュカさん」



(おわり)