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一隻の船が洋上にあった。 その船上。 月明かりの中、壁にもたれて海をみつめる男の姿がある。 「何を考えておいでですか?」 男が声のした方向を向くと、白く簡素な薄着をまとった女性が微笑みながら立っているのが見えた。透き通るような金髪が柔らかくゆらいでいる。闇の中、月に照らされてうっすらと浮かび上がるその姿は、現世の存在ではないかのように儚く、美しかった。 「ああ、姫、どうされたのですか、こんな夜中に」 「それはこっちのセリフですっ」 「……」 「目が覚めたら、ユーク様が側にいないのですもの」 少し拗ねた様な声を出す。 「すみません、姫。少し夜風に当たりたかったので」 「……一人で闇の中にいるの、怖いんです」 そう呟きながら、姫はユークに身をすり寄せた。 ユークは無言で、ローラを胸の中に抱き寄せ、金色の髪を撫でた。 「大丈夫ですよ、ずっと、私が側にいます」 ユークとローラは、ムーンブルクへの旅の途上にあった。 竜王を滅ぼした後、アレフガルドの再統一を見ぬまま、勇者ユークはローラ姫を伴い旅に出た。国王の強い慰留はあったが、このままアレフガルドに身を落ち着けたくはなかったのだ。このまま滞在したとしてもせいぜい宮廷闘争に巻き込まれるのが関の山で、内から突き上げてくるような冒険心を満足させるような出来事が起こるはずはない。彼は、世界を見たかった。 ローラ姫がユークについていくと訴えたとき、国王は反対した。ユークは救国の英雄。この国に残るならば二人の婚姻と言うものもいずれ出てくる話であったかもしれないし、国王も反対はしなかっただろう。だが揃っての出奔となれば話は別だ。王子がいないこの国にとって、第一王女であるローラの存在を欠くわけにはいかないのである。 しかし、結局のところ、国王は折れた。大事な愛娘であるからこそ、好きなようにさせてやりたいという親心もあったのである。家臣の中には「彼らの出奔を許せば、思わぬ火種になる可能性があります」と言上する者もいたが、それらには内密に国王は二人の旅立ちの支度を整え、最も信頼の出来るお抱え商人の船団に乗るよう指示して、彼らを送り出したのだった。 そして、今、二人はその船団の中にいる──。 「姫、寒くはないですか」 「いいえ、大丈夫です。それに……」 姫の細く白い指先が勇者の胸の上を這う。 「ユーク様の側にいると、暖かいです」 寄り添う二人の側を、静かに時が流れていく。 ユークはローラの頬を左手でそっと包み、親指を姫の唇に這わせた。姫の潤んだような瞳が、何かをねだるように勇者に向けられる。それに応えるかのように顔を近づけ、そして唇を重ねた。柔らかな感触が心地よい。唇に、頬に、額に、瞼に、唇をそっと触れさせた。ローラの息づかいが徐々に荒くなって来るのが分かり、彼女の手が服をギュッと握る感触を感じた。 「ゆ、ユーク……さま……」 「姫……」 ユークの手が、ローラ姫の肢体を服の上からまさぐり始める。優しく、しかし情熱的に。姫の息づかいに官能の響きが混じる。キスの雨を降らしながら、彼の手はいつしか姫の服の中にまで侵入を始めていた。 「あ……あぁ……んっ」 舌でローラの口内を蹂躙する。ちゅぱっ、と言う音が聞こえてくる度、ローラは恥ずかしさで震えそうになったが、その感覚が心地よかった。 口内を思う存分味わっていたユークが唇をわずかに離し、ローラの顔を見つめた。熱くなっているローラの顔が、ますます赤くなっていく。 「ユーク様……わ、わたし」 せつなげに、呟く。 「分かってます。姫……部屋に……戻りましょう」 微笑みながら言う勇者に、姫は無言でコクンと頷いた。 目的地、ムーンブルク城までの行程はあと二十日ほど。愛し合う二人には、短い時間だ。 一年ほど前の話である。 夜。 宮廷で開催された晩餐会が行われ、宮廷の貴族たちが多く集まっていた。ローラも国王に連れられ、出席していた。と言うか、ローラ姫が主賓みたいなものである。救出祝い、というわけだ。彼女が帰らなかったとしても痛痒を感じる者は実は多くはなかった。そうなったらそうなったで、ローラがいない宮廷が作り出されるだけであったろう。しかし、国王の愛娘の帰還とその祝賀会は、貴族達にとって王と宮廷中枢に名前と顔を売る絶好のチャンスである。続々と現れては、ローラ姫と国王に挨拶をしていった。 (あーあ、これでユーク様が側にいてくれたらな) そう思っていたローラだが、次々と表れて媚びを売っていく貴族達を見るにつけ、さらにその思いは募っていった。 (私を助け出してくれたのはユーク様なのに……) その勇者はこの場にはいない。今、側に寄ってきてローラに言葉をかけているのは宮廷の貴族たちである。美しさへの賞賛、救出への祝いの言葉。その中には、あわよくば一国の王女と──と不埒な考えで来ている若い貴族もいるだろう。ローラがアレフガルドの地方出身者ならば、 (反吐が出るんじゃぼけ! いてもうたるど!) と叫ぶところだ。しかし、さすがに出来はしない。清楚に微笑み、ねぎらいの言葉をかけるローラだった。 宴の途中、彼女は父に声をかけた。 「お父様、すみません。少し、風に当たって来ても良いでしょうか?」 「おお、少し酔ったのか? 気を付けねばならんぞ」 目尻を下げて、国王はそう言った。 警護の兵を連れて、ローラはバルコニーへと足を運んだ。ついて来ようとする兵士たちへ振り向き、声をかける。 「一人になりたいのです」 「え、しかし……」 「すみません、お願いします」 そう言われては、兵士達も従うしかない。 一人夜空を見上げるローラ。頭の中は、現在はメルキド地方で竜王の軍勢と戦っているであろう勇者ユークと兵士達のことでいっぱいだった。彼らが生死をかけていると言うのに、自分たちはここで饗宴の真っ最中。これで──良いとでも言うのだろうか? それは宮廷人と兵士とは役割が違う。どっちが欠けても国は成り立たない。理屈では分かっているが、感情がそれを否定してしまうのだ。 特に、自分の愛しい人が前線で戦っている。今も、もしかしたら、命を落とすその時を迎えているのかもしれないと考えると、胸が締め付けられるような痛みを感じた。 (勇者様……) 物思いに耽っていると、ふと、近くに人の気配を感じた。 振り返る。 「何をお考えでしたか?」 「……マイラス卿」 貴公子然とした男がすぐ側まで来ていた。このアレフガルドにおいて武芸で彼に勝る者はなしと言われ、「行く行くは大将軍にもなるだろう」との評価を得ている男だ。国王お気に入りの家臣であり、「ローラ姫の婿第一候補」との噂もあった。ローラが十六歳、マイラスが二十七歳であるが、問題のある年齢差ではない。 幼い頃、ローラは彼に、恋心とまではいかないが、ほのかな憧れを抱いていた。いや、今でも、もしかしたらそうなのかもしれない。側に彼がいることを知り、胸がドキリとしたのは事実なのだ。ただ以前と違うのは、ローラにもっと恋い焦がれる相手がいると言うこと。 「警護を伴わずにこのようなところへ……危険ではありませんか」 そう言いながら、両手に持っていた杯の一つを、彼はローラに手渡した。 「もうしわけありません」 そう言いながら、ローラは杯を受け取り、中の液体で喉を潤した。 何も喋らず無言で佇み、幾ばくかの時が流れる。ポツリと、マイラスは口を開いた。 「良かった、姫が無事で戻られて」 その言葉に込められた万感の思いを感じて、ローラはハッとした。 マイラスは北上する竜王軍からラダトームを守るため、南部の軍勢を指揮していた。そのため、ローラ姫救出の戦いに参加は出来なかったのである。どこへ幽閉されているのかも分からなかったのだから、それも仕方のないことだし、何より彼でなければ精鋭が揃う南部からの侵略に持ちこたえられはしなかっただろう。そして現在は、その南方の軍勢はユークが率いている。国王はこの宴にマイラスを参加させるため、指揮官を交代させて呼び戻したのだった。マイラスはローラ姫の帰還を心から祝う、数少ない人間の一人だ。 ローラがマイラスを見る。彼の熱い視線を受け止める。彼女は初めて気づいた。自分だけがほのかな恋心を抱いていたのではなく、彼の方もローラ姫を愛しく思っていたと言うことが。 「マイラス様、」 ありがとうございます、嬉しいです、と言葉を続けようとした時、突然ローラの視界が揺れた。 (え……?) 「姫?」 ローラの意識が反転する。ぐらりと体が揺れ、そして地に倒れようとした自分をマイラスが抱き留めてくれたのを感じながら、彼女は意識を失った。 ふわふわと、ローラの意識は宙をさまよっている。 (すごく、すごくココチイイの……) 何かが侵入してくる。自分のカラダを包むモノが取り去られていきながら、全身が暖かなモノに包まれるのを感じた。 (あぁ……) 甘い吐息が洩れる。驚くくらいカラダが熱くなり、気持ちよさで自分が宙に釣り上げられていくような、そんな感覚を感じた。 ローラが自然と瞼を上げると、目の前に月光に照らされた男の顔が見えた。 「え……」 その顔が近づき、唇が柔らかなものでふさがれた。 「んっ」 ついばむようなキスをしたあと、ソレは離れる。 ローラは男の顔を潤んだ瞳で見つめた。 「ま、マイラス……さま」 「……」 無言でローラを見つめる顔は、マイラスその人だった。背中を包む感触で、横たわっている場所がベッドの上であることが分かる。寝台の上で、幼少の頃から憧憬の視線を向けていた男性に、覆い被さられて、キスをされている。服の中に彼の手が侵入し始めている。素肌を触られ、愛撫されている。徐々に衣服を取り去られようとしている。彼の唇が再び近づき、唇から首筋へ、そして白く露にされ始めた胸元へと降りてきていた。 「あぁ……あの、や、やめて……」 マイラスは無言だ。 ローラの胸が、全て外気にさらされた。花のような香りが男を包んだ。その匂いに我を忘れたかのように、男はローラの胸へ唇を這わせた。 「はうっ」 ビリッと、何かがローラの上に疾った。男は舌でローラの白い胸を弄び、右手は脚の線を確かめるようにふくらはぎから太股へと滑る。内股へ手のひらが到達した時、ローラは無意識に両の内股をすりあわせ、侵入を阻止しようとした。しかし、その仕種は男をより興奮させただけで、手のひらは止まらず、そして姫の一番敏感な部分への接触を許した。 「あっ、あぁん」 一際高く、切なく、官能の響きをにじませた喘ぎ声が部屋の中へこだました。男の手はさらに優しいながらも激しく、ソコを愛撫する。そして再びローラの唇は男のソレで包まれた。 「ふ、ふぅっ……んっ……んっ……」 男の舌がローラの口内を蹂躙する。 何も考えられなくなっていき、全身の感覚に身を任せ、気持ちの良い愛撫を感じていた。気が付くと、いつの間にかローラは一糸も纏わぬ姿でベッドの中へ横たわっていた。雪のように白い肌が興奮でややピンク色に染まっていた。そして、男も服を脱いだ格好でローラの上にのしかかってきた。 「あっ……あっ……」 太股に、硬いモノが当たる。ローラは無論、それが何であるかは分かっていた。足を広げさせられるが、抵抗は、もう出来なかった。むしろ、待っていた、という方が正しい。 マイラスの肘がローラの肩の横に置かれ、手のひらが彼女の頬を包んだ。彼の熱い視線を瞳で受け止め、自然と顔が近づき、唇を合わせる。広く厚く浅黒い胸が、ローラの双丘を押しつぶす。その感触でローラは熱い吐息を漏らした。 (気持ちいいの……) 濡れそぼったアソコに、マイラスの硬いモノが押しつけられる。しばらく周辺を彷徨っていくその感触にたまらないものを感じ、姫の腰が自然と蠢いた。その行動を感じた男は姫の顔を見つめたが、もうそれにローラは気付く余裕はなかった。動くのをやめ、ローラのある場所にソレを固定した男は、一気に腰をつきだした。 「あぁぁっ……」 か細い、それでいて熱い感情を秘めた声が部屋に響いた。 ローラの頭は完全に一つの思いで支配された。彼女の中で男が蠢き、突き上げ、欲望を伝達し、そして吐き出した。何度も、何度も。ローラの意識は白濁とした欲望に突き動かされ、何も考えられなくなっていった。男性自身を舌でねぶり、口内を犯され、そして口の中で発射されることもあった。それを彼女は喜んで受け止めたのだ。そしてまた、ローラは女性の中心を貫かれ、甘い喘ぎ声をあげた。 その行為は空が白み始めるその時まで続けられたのだった……。 「あっ……あん……と、と言うことが……」 「ことがあった?」 「杯の中に薬が入っていて……」 「ハメられたのかい?」 言いながら、ユークはローラの肢体を突き上げた。貫かれながら、ローラは話を続ける。甘い響きをにじませたその声で。 「どう……思いますか……?」 無言で突き立てるユーク。その動きがドンドン激しくなり、そして、二人は頂点へ登り詰めた。ドクン、ドクンと、熱い欲望が姫の体内へ大量に撃ち込まれた。 ……。 腕枕をしながら、ユークは問いかける。 「姫、さっきの話って……」 「ふふ……」 小悪魔的な微笑みを浮かべながら、ローラはユークを見つめた。 「するわけ、ないじゃないですか」 「あ……」 「私に触れて良いのは、貴方だけです。他の人には触らせません」 ローラはそう言いながら、ギュッと抱きついた。 「でも、そういう話って、けっこー興奮……しますね」 ユークは言う。ローラも、頷いた。 長い船旅の中、二人の仲が深まるにつれ、互いへの愛情が増すと同時にいささかマニアな方向へ向かい始める二人であった。 そして二人は眠るまで、甘い雰囲気の中、睦言を囁き合ったのだった。 「マイラス様は、私のお兄さまのような存在ですから。あの時も、私をベッドまで運んで下さったのですが、すぐに女官に託して部屋から出ていったのですよ」 そんな話もしたのを、ユークはよく覚えている。 船旅は続く。 二人の乗る船団は、ムーンブルクまであと三日の距離にあった。 (おわり) |