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「今夜12時誰かが……死ぬ?」 俺と梓の声がハモった。 そして顔を見合わせる。 「さっき私たちの部屋に戻ったら、ドアのところにこの紙が落ちてたの」 「部屋の……中に?」 「そう。ドアの下に少し隙間があるから、そこから差し込めば中にあることは納得できるんだけど」由美子さんは困惑の表情で説明を続ける。「だけど、この文章が、なんか変でしょ」 「そりゃ、これは変って言うか」 予言のような意味を持つ文字の羅列。 ――予言? いや、これはもしかしたら。 「でも、悪戯じゃないんですかねぇ」 かおりちゃんが言う。 それは確かに否定できない。気持ちの悪いものを他人の部屋にさしいれる愉快犯がいてもおかしくはないかもしれない。しれないのだが。 もしも。 「まさかとは思うけど……」 「え、何が」 俺の呟きを聞きとがめて梓が訊いてくる。 「いや、もしかして、これって殺人予告だったりして、とか思ってな」 沈黙が落ちる。 四人とも誰も言葉を続けようとはしない。 「な、なんてな。ハハ。いや、たぶんただの悪戯だよ、かおりちゃんの言うとおりにさ」 重苦しくなった空気を打ち払うように、俺は前言を撤回した。 それでも三人の表情は晴れなかったが。 「これ、一応小林さんに報告しておいた方がいいんじゃないかな」 「あ、そうよね。気付かなかった」 ハッとした表情で由美子さんが言った。いつも冷静な彼女にも、さすがにいくばくかの緊張と動揺が見てとれた。それはそうだろう。こんなミステリィ小説の中の出来事のようなことが実際自分の身に降りかかってくるなんて、誰も思わない。 ミステリィ小説? そう言えば、俺は窓に歩み寄り外を眺める。 雪は勢いを増していた。風は強く、渦巻いている。連なるような雪が次々と、音もなく窓を叩いている。街中で暮らしている俺にとって、こんな雪は珍しい。梓などは比較的慣れているのかもしれないが。 「耕一、どうしたんだ」 「いや、なんでもない」 閉ざされた雪の山荘になりつつある、なんてことを口に出す気にはなれなかった。 ……悪い予感がする。 何かが起こりそうな、そんな予感。 不幸は突如として降りかかる。いや、突然だから不幸になるのかもしれない。人の境遇というものは、絶対的なものではなく相対的なものだからだ。 ふと、思い出す。 あの夏の日も――そう言えば突然だった。 チリチリと。 頭に何かが走った。 「あれ?」 俺は辺りを見回す。由美子さんが訝しげな視線を向けてきた。 「どうしたの、柏木クン」 「今何か……聞こえたような」 言いながら、違うような気もした。 聴覚で聞いたのではないような、不可思議な感覚。脳を電気がはしったような感じで映像が見えたような。いや、自分でもよく分からない。でも、今何かが――。 ふと顔を上げると、梓の奴も妙な表情をしていた。 あいつも――感じたのだろうか? と、いかんいかん、物思いに耽っていても仕方が無い。とりあえず小林さんに報告に行かなければ。 俺は梓たちを残して一人部屋を出た。嫌な予感はしていたが、俺は一人なら何が起こっても対応できる自信はあったし、梓のやつも口も悪いがその手足も凶悪だ。何かあっても大丈夫だろう、そう考えていたのだ。 階段を降りる。すると談話室の横にあるフロントの電話で小林さんが誰かと話をしているところだった。それを見てちょっとだけ安心する。少なくとも電話はつながっているらしい。先刻梓に聞いたのだが、携帯のアンテナ感度は非常に悪い、というかほとんどつながらないらしい。なので一般電話が頼りなのだ。 丁度話が終わり受話器をおいたところだったので、声をかける。 「小林さん、どうかされたんですか」 「ん、ああ、柏木君か。いや、実は宿泊予定でまだ着いていない方がいてね。この吹雪だろ」小林さんは外の方を見やる。「これは今日は着けないかもしれない、って電話があったんだ」 「あー、それは……」 確かに、この吹雪では道路も雪に埋もれているだろう。最寄の駅からはけっこう距離がある。バスはもうない、というかあっても走らないだろう。徒歩では自殺行為だ。それにしてもせっかく予約したのに宿泊できないような人がいるとは。 「それより、何か用かい? 四人揃って。飲み物でも……」 「あ、いや、違うんです。実はですね」 と、文字の書かれた紙を小林オーナーに見せる。 「こんなものが小出さんとこの部屋の中にいれられて――」 俺は口を閉ざす。 その紙を、文字を見た小林さんが表情が変わった。顔色は一瞬にして蒼白となり、目を見開いた。恐怖、怒り、動揺、驚愕、さまざまな感情の波が見て取れる。 「柏木君、これは、」 小林オーナーが言い募ろうとしたその瞬間。 シュプールに女性の悲鳴が響いた。 (つづく) |